9 月中旬、ブラジルのU-18年代のクラブ育成の実態を探る為、リオデジャネイロ州都心を拠点に活動するセハーノ FC のグラウンドに訪れた。
セハーノ FC は現在トップチーム、ユースチーム共にカンピオナートカリオカ(州リーグ)の三部に相当するセリエ B でプレーしているクラブだ。トップチームに関しては全国リーグから数えると 6 部にあたる。
しかし、そこには日本の育成事情とは大幅に違う光景を見る事が出来た。まず、ここブラジルには日本の高校サッカーの様に学校の部活で行う高校サッカーは存在しない。本気で上を目指してサッカーをするのであれば、クラブチームのテストを受けて、所属するクラブを決めるのだ。
ストリートサッカーで培われる基礎能力
セハーノ FC の指導者も「クラブでプレーをするのであればストリートサッカー等で基礎的なドリブルを身に付けるのが大前提だ」と話していた。
カテゴリーは U-18、U-17、U-16、各年代のリーグに分けられてプレーをしている。今回セハーノFCの U-16 の世代を見学した際には 26 人の選手、4 人の指導者が練習に参加していた。また、クラブには人工芝のグランドが 3 面あり、私自身、高校サッカーの県3部リーグ、つまり強豪校ではないカテゴリーでプレーしていたが、これらの環境は本当に驚きを隠せなかった。
よく自分はブラジルで「サッカーをしていたか?」と聞かれるが、その際にも単に「サッカーをやっていた」と答えると、上記で説明したような、整備された環境でプレーをしていたのと勘違いされる為「アマチュアでやっていた」と答えなければならない。
指導者も選手もより上のカテゴリーを目指す
今回練習を訪れたセハーノFCは州の三部リーグで戦っている事もあり、決して強豪クラブとは言えない。そういった中で、指導者・選手が一丸となり、より上のチームで戦うという共通認識は変わらなかった。
今回インタビューをさせて頂いたコーチのロドリゴメリックさんも「今後はフラメンゴやコリンチャンスの様なブラジルの最前線で戦っているクラブで指導をしたい。その為に今、自分自身が本気でサッカーについて考え、選手たちも少しでも上に行けるように日々トレーニングに励んでいる。チーム全体としても上に行きたいという貪欲な気持ちが必要。」と話していた。
指導者・選手共に阿吽の呼吸で上を目指す事が出来る為、モチベーションの面でも最高の環境とも言えるだろう。また、かつては国内のプロリーグでのプレー経験のある GK コーチのシアラさんは「息子が州内の強豪であるヴァスコダガマの U-12 でプレーする為、1 年前にリオデジャネイロから 2500キロ離れたブラジル北東部から引っ越してきた。息子には競争が激しい、ここリオデジャネイロ州でプレーし、そして上を目指して欲しい。」と話していた。これらの事を通じて、ブラジルでは本当に育成に力を入れているのだという現実を強く印象付けられた。
クラブが選手に求めるもの
セハーノ FC は現在ポゼッションサッカーをモットーにしている。今回訪れた際には、狭いゾーンでパスを回し、サイドに展開してシュートを打つトレーニングを行っていた。これらの事を実践するには足元の止める・蹴る、ドリブルの技術が身についていることが前提だ。それに加えて、ボールに対して貪欲に向かう姿勢が求められている。
多くの選手が必死にボールに対して関わろうとチャレンジをし、相手と戦うという姿勢がピッチの外からも伝わってきた。私自身、実際にブラジルの 4 部や他の U-20 リーグの試合を観戦したが、これらの姿勢というのはブラジルでは当たり前の様にプレーされていた。
個人の技術に関する練習は自分自身で
当日の練習ではこのトレーニングのみだったが、選手によると「普段の全体練習では戦術理解の練習がメイン。個人の技術に関する練習は自分自身で行うのが普通。だから、上手くなるためには自主練習が重要」と話していた。
彼の話の通り、ブラジルでより上のリーグでプレーをするのであれば、チーム全体のトレーニングに加えて、高い意識を持って普段から主体的に成長していくための日々を過ごしていく事が重要だろう。
今回のインタビュー・練習見学を通じてブラジルの下部のリーグでプレーするチームと日本のクラブでは大きく環境や技術等の基盤が大きく異なっていると感じた。
日本のサッカーでも、現在育成年代のクラブチームの数は数十年前に比べると増えていて、確実にブラジルの様な環境に近づいていると私は考える。その中で貪欲に上を目指すという志を持つ選手、それを受け皿にするクラブが更に増えれば、日本サッカー全体の基盤も上がっていくはずだ。
【執筆者】堀 武佐士
ブラジルのリオデジャネイロへ留学中の大学生。将来はJリーグのブラジル人選手通訳とともに、地域に根差すクラブの仕事にも興味を持つ。